いまから約2年前の2022年3月2日、全世界株式の投資対象からロシアが除外されました。

ロシアによるウクライナ侵攻に対する、各国の制裁が広がった流れのなかでの措置でした。

今回は、この出来事が「全世界株式への投資」にどの程度影響するのかについて解説しながら、あらためて「分散投資」の大切さについて考えてみたいと思います。

2022年3月の報道内容(主要指数からロシア株が除外)

当時の報道記事から一部抜粋します。

指数算出会社のMSCIとFTSEラッセルは2日、主要指数からロシア株を除外すると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁の動きが広がる中、ロシア株は投資ファンド業界の大部分から切り離される。

 MSCIは2日の発表資料で、世界の市場参加者からのフィードバックにより「ロシア株式市場は現時点で投資不可能であり、ロシアの証券をMSCI新興市場指数から除外すべきだと圧倒的多数が認めた」ことが示されたと説明した。

中略~

 MSCIに続き、同業のFTSEラッセルもロシア証券を株価指数から除外すると発表した。同社はモスクワ取引所上場のロシア指数構成銘柄を3月7日の取引開始時からゼロ値で除外すると説明した。 

Bloomberg 「MSCIとFTSE、「投資不可能」なロシアを主要指数から除外」

MSCIはアメリカ、FTSEはイギリスにそれぞれ拠点を置く指数算出会社です。

指数算出会社というのは、さまざまな国や地域の市場動向をあらわす指数(=インデックス)を作成している会社のこと。

指数(=インデックス)は、世界中で投資信託などの運用時に参照されるため、投資市場に大きな影響を与えます。

その2台巨頭であるMSCI社とFTSE社が、そろってロシアを投資対象外とする声明を発表したという記事であり、世界の投資市場からロシアが締め出されたと解釈できます。

全世界株式型投資信託(オルカン)への影響について

NISAやiDeCoを利用して、全世界株式型の投資信託を保有している人は多いです。

投資信託の資金流入ランキング(売れ筋)をみると、いま日本人がもっとも買っている投資信託は、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)(通称:オルカン)という銘柄であることがわかります。

しかし、オルカンの投資先について正確に把握している人は、意外と少ないのではないでしょうか。

オルカンは誰が運用している?

オルカンを運用しているのは、三菱UFJアセットマネジメント株式会社と、三菱UFJ信託銀行株式会社の2社です。

前者が「どこの会社の株式をどれくらい購入するか」を指示し、後者が株式等を購入・保管するという役割分担となっています。

では、三菱UFJアセットマネジメントが投資先を独自に決めているか?というとそうではなく、指数(インデックス)を参照しています。

オルカンのようなインデックス型(パッシブ型ともいいます)の投資信託は、運用会社が独自に投資先を決めるのではなく、なんらかの指数(インデックス)を参照しながら投資先を決定しています。

オルカンでは、MSCI社のインデックスであるオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)という株価指数が採用されています。

したがって、オルカンの投資先を実質的に決定しているのは、アメリカのMSCI社ということになるのですね。

オルカンの投資先からもロシアは除外されていた

自分が購入したい(保有している)投資信託の投資先を調べるには、投資信託の説明書である目論見書を確認するのが簡便です。

この目論見書は、半年に一度の頻度で更新されます。

オルカンの目論見書から、投資先としてロシアが含まれているか確認してみましょう。

ロシアがウクライナに侵攻する前の2022年1月26日に発行された目論見書をみると、新興国・地域のなかにロシアが含まれていることがわかります。

参照元: eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)目論見書(2022.1.26)

ところがその半年後、2022年7月23日に更新された目論見書では、ロシアは削除されていました。

参照元: eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)目論見書(2022.7.23)

冒頭の記事でご紹介したように、2022年3月2日、MSCI社は投資対象からロシアを除外すると発表しました。

その結果、オルカンの投資対象からも同様にロシアが除外された、ということです。

ロシアが除外されたことによる運用成績への影響は?

オルカンの投資先からロシアが除外されたことにより、運用成績にはどれくらいの影響があるのでしょうか?

それを推測するために、オルカンの投資先に占めるロシアの割合を調べてみましょう。

ここでも目論見書を参照していきます。

まず、ウクライナ侵攻前の2022年1月26日時点における、オルカンに占める国別・地域別の割合を見てみましょう。

参照元: eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)目論見書(2022.1.26)

アメリカが59.6%と、圧倒的に多いことがわかりますね。

エリア別にみると、アメリカ、日本、ヨーロッパなどを含む「先進国」が全体の88%を占めており、中国や台湾などを含む「新興国が」残り12%です。

ロシアは、新興国のその他(4.6%)に含まれています。

次に、新興国でロシアが占める割合を調べるために、eMAXIS Slim新興国株式インデックスという銘柄の目論見書を確認します。

参照元: eMAXIS Slim 新興国株式インデックス 目論見書(2022.1.26)

新興国に占めるロシアの割合は3.9%でした。

したがって、全世界株式(オルカン)に占めるロシアの割合は、次のように計算されます。

全世界に占める新興国の割合(12%)× 新興国に占めるロシアの割合(3.9%)= 全世界に占めるロシアの割合(0.468%)

オルカンに占めるロシアの割合は、わずか0.5%程度だったということになります。

ロシアが除外されても、全体の割合には大きな変化がないことがわかりました。

ここで注意しておきたいのは、「投資先には含まれていなくても、値動きには大きな影響を与える可能性もある」ということです。

ロシアのウクライナ侵攻は、人道的な問題だけでなく、世界の実経済にも大きな影響を与えています。

たとえば、ヨーロッパにはドイツをはじめとして、ロシアからの天然ガス等の輸入に依存している国が多く、エネルギー価格が高騰するなど国民生活にも影響が出ました。

その影響はヨーロッパにとどまらず、日本や世界の国々にも波及しています。

投資信託を介して世界の株式市場や債券市場などに投資している我々は、たとえ遠い国や地域で起こっていることでも、自分の資産価値に影響を与えるということを、知っておいたほうがよいと思います。

分散投資の大切さについて考える

以上、全世界株式型の投資信託(オルカン)の投資先からロシアが除外されたことによる影響について説明しました。

オルカンの投資割合そのものには大きな変化はないものの、ウクライナ侵攻による世界経済への波及効果により、間接的に値動きに影響する可能性があると考えられます。

日本においても、ここ数年は物価高(インフレ)を体感するようになりました。

国内におけるインフレは、世界的な原材料価格の高騰や、円安の影響などが絡み合って発生しているといわれています。

インフレが継続すると、銀行預金の資産価値は目減りしていく(値段が高くなるので買えるモノが減っていく)ため、インフレ対策としてNISAなどを利用して投資をする人も増えています。

物価が上がらないデフレ経済に慣れた日本人にとって、わずか5年~10年前には予想もしていなかった状況ではないでしょうか。

これから先も、どのような変化が生じるかは誰にもわかりません。

だからこそ、ますます「分散投資」が大切になると、私は考えています。

世界中のさまざまな国や地域に分散したり、株式や債券、ゴールド(金)など複数の資産に分散したりすることで、「将来どっちに転んでも大丈夫」となるように備えておくのです。

投資においては、目先の成績や利益にとらわれず、長期的な目線で資産割合を管理することが、結局は資産を守りながらしっかり増やせることにつながるのだと思います。

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投稿者プロフィール

前野なおひと
前野なおひと老後の安心を育てる🌱資産形成・お金のパートナー
「人に教える仕事がしたい」という想いから会社を辞めて独立し、以前から取り組んでいた投資の知識を活かして資産運用講座をスタート。ところが、受講者の多くが抱えている老後資金への不安を解消するには、資産運用の知識だけでは不十分であり、家計や保険、年金など幅広い「お金の知識」が必要なことに気づく。そこで、お金の専門家であるFP資格を取得し、一人ひとりの状況に応じたサポートを開始。FPとしての専門知識を深めることで「寄り添ってもらえる」「安心して相談できる」と評価されるようになり、成長を遂げる。現在は、主に老後資金への不安を抱える女性に対して、完全に独立したFPとして中立な立場でのFPコンサルタントを通して、適切な家計管理や資産形成をサポート、自由で豊かな老後を実現していただくための基盤づくりに貢献している。また、学びのマーケット「ストアカ」の講師として650名以上に対し資産運用などを教える講座を開催し、最高ランクのバッジである「プラチナ」を取得。現在も引き続き講師活動を展開している。

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