先月、「プラチナNISA」という言葉がニュースなどで話題になっていました。それをみて、気になった方もいるのではないでしょうか。

これは、高齢者向けの新しいNISA制度として、2026年の導入が検討されているものです。まだ正式決定ではありませんが、今後の議論に注目が集まっています。

今回は、プラチナNISAの概要と、現時点で私が感じている懸念点についてお伝えします。


プラチナNISAとは?

報道によると、プラチナNISAは「高齢者向けのNISA」という位置づけで、岸田前首相が会長を務める「資産運用立国議員連盟」によって提言された制度です。

仕組みとしては、現在の新NISA制度に「65歳以上の人だけが使える追加機能」を設けるという構想になっています。

具体的な内容としては、以下の2点が挙げられています。

  • 対象商品の拡大(毎月分配型投資信託の解禁)
  • スイッチング(商品の入れ替え)を可能にすること

なぜ高齢者向けに特化した制度を?

現在のNISAは、基本的に「将来に向けて資産を育てていくこと」が前提となっており、投資対象も中長期保有に向いた商品が主体となっています。

このため、60代以降の人たちからは、「今さら(資産を)育てても間に合わない」という声もあったようです。

そこで、毎月の収入が得られる投資信託(毎月分配型)を対象商品に含めたり、運用中の投信を別の商品に乗り換えられる「スイッチング」機能を加えたりすることで、高齢者にも使いやすい制度にしよう、という考えがあるようです。


毎月分配型投信の解禁は“悪手”

しかし、個人的には「対象商品の拡大」はむしろ逆効果だと思っています。

毎月分配型投信は、定期的にお金が受け取れることを売りにしている一方で、手数料が高く、元本を取り崩すタコ足配当になることもあります。

つまり、分配金をもらっているのに、トータルでは資産が減っている、というケースが起こり得るのです。

本来、資産の取り崩しが必要な場合でも、運用はなるべく長く続けたほうが資産寿命は延びます。これは、シニア世代にとっても重要な考え方です。


長く保有するための工夫を

私のおすすめは、「定率・定額での自動取り崩し」を利用しながら、インデックスファンドなどの低コストな投信をできるだけ長く保有することです。

たとえば、65歳で取り崩しを始めたとしても、男性の平均余命は約20年、女性は約25年あります。中長期の運用期間をしっかり確保できる人も多いのです。

現在、楽天証券やSBI証券では、NISA投信の自動取り崩しに対応しています。

今後は、こうした機能をより多くの金融機関が提供できるようにすることが、制度全体としての課題ではないでしょうか。


スイッチングは必要?ただし注意も

スイッチングとは、保有中の投信を売却して、別の商品に変更することです。現行のNISA制度ではこれができませんが、プラチナNISAでは可能にする案が出ています。

運用方針の変更やリバランス目的でスイッチングを行いたいというニーズは確かにあります。

しかし、適切なスイッチングの判断には、ある程度の知識と経験が必要です。

もし誤ったタイミングで乗り換えてしまうと、逆に損失を広げてしまう可能性もあります。高齢者に限定して解禁するというアイデアは、慎重に考えるべきです。


本当に必要なのは制度の「複雑化」ではない

ここまで見てきたように、プラチナNISAには現状の制度では対応しきれないニーズに配慮した面もありますが、制度を複雑にしてまで導入すべきものかどうかは疑問です。

むしろ、必要なのは、次のような取り組みではないでしょうか。

  • シニアに合った運用方法の周知
  • 自動取り崩しの機能を金融機関全体に広げる
  • 利用者が安心して相談できる体制の整備

高齢者に限らず、すべての世代が安心して資産運用に取り組めるような制度設計とサポート体制が求められていると思います。


まとめ:制度を広げる前にやるべきことがある

プラチナNISAの導入には、多くの疑問が残ります。

高齢者に合った資産形成支援の必要性は理解できますが、それは「新たな機能の追加」で解決すべきではなく、今ある制度を丁寧に整えることが先決ではないでしょうか。

本来、必要なのは制度の複雑化ではなく、使いやすく、わかりやすい仕組みづくりと投資教育です。

今後、議論の中で制度の方向性がより良いものに変わっていくことを期待しています。

投稿者プロフィール

前野なおひと
前野なおひと老後の安心を育てる🌱資産形成・お金のパートナー
「人に教える仕事がしたい」という想いから会社を辞めて独立し、以前から取り組んでいた投資の知識を活かして資産運用講座をスタート。ところが、受講者の多くが抱えている老後資金への不安を解消するには、資産運用の知識だけでは不十分であり、家計や保険、年金など幅広い「お金の知識」が必要なことに気づく。そこで、お金の専門家であるFP資格を取得し、一人ひとりの状況に応じたサポートを開始。FPとしての専門知識を深めることで「寄り添ってもらえる」「安心して相談できる」と評価されるようになり、成長を遂げる。現在は、主に老後資金への不安を抱える女性に対して、完全に独立したFPとして中立な立場でのFPコンサルタントを通して、適切な家計管理や資産形成をサポート、自由で豊かな老後を実現していただくための基盤づくりに貢献している。また、学びのマーケット「ストアカ」の講師として650名以上に対し資産運用などを教える講座を開催し、最高ランクのバッジである「プラチナ」を取得。現在も引き続き講師活動を展開している。

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